見えない世界と、かたちあるもの。
子どもの頃からしている遊びがある。
遊びというか、習慣というか。
それはこういうもの。
近くにある木の梢や葉っぱのどこかに当たりをつけ、
そこをじっと見る。
たいていは何も考えない。
ただじっと視線を送り、
じっと見つめる。
そうして反応を待つ。
するとほとんどの場合、
数秒のうちにそこの葉が動く。
さわさわゆらゆらと動く葉の様子を見て満足する。
そんな遊び。
ただ風が吹いただけの現象と言えばそれまでだが、
そんなことはべつに関係ない。
ただこちらが視線を送り、
それに植物が応える。
そのことを確認する。
いつからから編み出したこの遊びを、
大人になった今でもまだ時々やっている。
・
これは中学生くらいのころ。
あるとき、
地球を上から見た絵が浮かび、
そこにたくさんの人間が
次から次へと湧いては消える映像を見ていた。
人間は黒い点くらいに小さくて、
個の識別はなく、全体としての動きだけがあった。
それを見ながら、
「人間はなんのために地球に生まれてくるんだろう?」
と思っていた。
後日そのことを母に伝え、
「そういうことを考える職業って何?」
と尋ねると、
「それは哲学者だ」
と言われて、
当時流行っていた『ソフィーの世界』を買ってきてくれた。
その頃の私にはむつかしそうに感じられて、
結局読んではいないのだけれど。
哲学者にはならなかったけれど、
ずっとそういうことを考えている。
・
見えない世界にはずっと惹かれ続けている。
でも、かたちあるものも大好き。
五感でとらえられる世界が好き。
たとえば食べること。
いまどんなものが食べたい?
からだに聞いて、
返ってきた答えを叶えられたら最高。
口の中で生まれた味を
かたちにして実際に味わう。
味だけじゃなくて、
選んだ器や盛りつけたときの風情、
そこにあらわれた“かたち”もまるごと味わっている。
夕暮れ時に、
空を背景にして浮かびあがる木々のシルエット。
影絵みたいに黒々した葉っぱのモザイク。
冬の枯れ木の枝先が見せる幾何学模様。
空と雲とその日の天気が織りなす色のグラデーション。
昨日と今日と明日で同じものはない。
いつも違う絵画を鑑賞するような気分で
目に入る景色を愛でている。
粘土で作るもののかたち。
なぜかこれがいいというふくらみがある。
定規では測れないR(アール)のライン。
そこに理由はなくて、
ただ確信だけがある。
飼い猫のふんわりしたからだと、
そこに顔をうずめた時の毛のやわらかさ。
なんともいえない匂い。
私は、かたちあるものを愛している。
・
昔から、風に吹かれるのが好きだった。
気持ちのいい風に吹かれると陶然となる。
陶然。
うっとり。
なんて気持ちいいんだろう。
風は目には見えないが、
かたちあるものに触れたときに、
その姿が見える気がする。
かたちあるものを通じて、
そこにある
見えないものをいつも感じている。
上野 華子 | Hanako Ueno
1980年お茶の水生まれ千葉育ち。AB型乙女座。
2019年豊島に移り住み、季節の節目に合わせたフラワーエッセンスのワークショップを開催。
2022年からエナジーワークを始める。
家の敷地に建つ納屋を宿と陶房にReviveして、ここにやってきた人が ‘自分に還る(かえる)’ ためのリトリートプログラムを準備中。
