宿を始めてから一年が経った。
豊島は美術館を観に世界中から人がやって来るので、お客さんは海外の方がほとんど。
いちばん多いのはたぶんフランスで、そのほかヨーロッパ各国、北欧、アメリカ、メキシコ、オセアニア、アジア。マダガスカルの近くにあるレユニオンという島から来たという人もいた。
英語が堪能なわけじゃないからなんとなくそれらしく会話をしているのだけど、かえってその人の人柄みたいなものがビビットかつダイレクトに伝わってくることが多い気がしている。
日本人同士だと共通して持っている‘フィルター’みたいなものがたくさんあって、まずは何重かに重なった布越しにコミュニケーションを始める感じ。だからその人の本質みたいなのは少し時間が経たないと見えてこないけど、海外の人だとなぜか最初からスパッと見える感がある。文化や人種の違い、旅先での心持ちなどもあるのだろうが、お互いに余計なものが少ないのだと思う。
そんなわけでお客さんのその人らしさを感じられることが多く、そこにすごく面白さを感じている。
写真の彼らはドイツから来た友だちコンビで、朝も夜も、外に置いてあるこのタンスを(勝手に)机にして食事をしていた。この席から見える景色といえば、手入れの行き届いていないワイルドな中庭と私たちの住む母屋くらいだったのだけど。
ある夜には、「なかなか帰ってこないな。雨も降ってるけど大丈夫かな」と思っていたら、だいぶ暗くなった頃に帰ってきてヒッチハイクしたと言うので驚いた。彼らは頭に登山用のヘッドライトをつけて日本地図を広げ、商店で買い込んだおつまみとビールで晩酌しながら楽しそうに旅の相談をしていた。いま思い出しても笑ってしまう。
基本的にその人がその人らしく自由にしているのを見るのが好きだ。
気が合うとか好みとかに関係なく、その人らしさが表れているのを見るだけで単純にいいなと思う。チャーミング=魅力があるってそういうことだ思う。
さらに興味深いのは、ほとんどが一期一会だということ。あのチャーミングな彼らと会うことはたぶんもうないのだろう。あの人にも、あの人にも、あの人たちにも。あんなに心に響いたのに。
けれどそこには切なさとかさみしさとかはなく、ただ事実としてそう思う。なんだろうこの清々しい感じは。さめているのではなくむしろ感銘を覚えている。
こんにちは。 わぁ素敵ですね! おもしろいですね! じゃ、さよなら。
人生って本当はぜんぶこうなんじゃないか。
長さとか密度とかに関わらず本質的にはぜんぶこれなんだと思う。
本来人は誰しもチャーミングで、人生はどんなものも一瞬だということを感じさせてくれる。
宿の仕事はなかなか面白い。
チャーミングな人たち

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