見入る 聞き入る 感じ入る

writing

悦に入るという言葉がある。

こう書いて「えつにいる」と読む。
私にとって特別な言葉のひとつ。

この言葉に出会ったのは私がまだハタチそこそこのことだったと思う。
その頃の私は料理に夢中で、その度合いをさらに増すきっかけが有元葉子さんとの出会いだった。
おそらく図書館か本屋さんで彼女の本と出会い、そしてすぐにその世界観に魅了された。
(その頃はまだインターネットという世界の扉がなかった)

まずなんといっても彼女の本が美しい。
料理研究家なのでレシピ本が彼女の主な著書だったが、私はそれを美しい写真集か美術書のような感覚で捉えていた。写真、文字の配置、余白の取り方。それからもちろん彼女の選ぶ器、盛り付け方、調味料へのこだわりと料理における哲学、調理道具にインテリア、身につけているエプロン、そして彼女が暮らす世田谷の自宅やトスカーナの家まで、すべてのものに彼女の美意識は行き届いていた。
上質なものへのゆるぎない眼差しとそのセンスは私の好みにぴったりだった。

まだ若かった私は、やわらかいスポンジのように彼女の世界観をごくごくと吸収した。
まるで喉が渇ききっていた砂漠のラクダのように。

好きになったら真っしぐらにとことん追求していくタチなので、彼女の著書を片っ端から読んだり集めたりして、本に載っている料理を来る日も来る日も作り続け、手の届く範囲で調味料や道具などを手に入れた。まさに憧れの人だった。

その彼女が書いた文章を読んだ時、そこに「悦に入る」ことについて書いてあったのだ。
彼女が大事にしているあり方として。
私はすぐにこの言葉に響いた。

なんていい言葉!
私にぴったり!

そしてこの言葉は私の中の特別な場所に音もなくおさまった。

彼女が書いた言葉ということもあるだろうが、
(彼女のもたらした影響は計り知れない)
むしろ、私は自分の中にあった感覚を彼女という存在を通して見つけたのだった。
それから20年以上になるけれど、この言葉は日々私の中に生きていると思う。
私の人生を作っている。

見入る 聞き入る 感じ入る

このタイトルは最近の発見から出てきたもの。
「〜〜入る(いる)」ということがすごく鍵なのではと思っている。

こんな言葉はないかもしれないけど、
嗅ぎ入る 味わい入る
なんてのもあると思う。

とにかくそこへ入っていくということ。

その中へ。
その感覚の中へ。
没入する。

入っていくのだ。

それがカギだ。

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